やあやあ、久しぶりだね。今日はちょっと重い話をしなきゃならないんだが、まあ聞いてくれよ。
2026年4月、秋田県横手市の酒造会社で、40代の男性が酒タンクの中に落下して亡くなるという痛ましい事故が起きた。発見されたときにはすでにタンクの中に入っており、病院に搬送されたが死亡が確認されたんだ。タンクの深さは2メートル以上、中には「もろみ」が3分の2ほど入っていたという。「酒樽に人が落ちた」という通報があって発覚したこの事故は、日本の伝統産業である酒造りの現場に潜む危険を改めて世に知らしめることになったんだよ。
今日は追悼の気持ちも込めて、日本の酒造りの歴史とその現場の知られざる危険について、おじさんなりにじっくり語っていこうと思う。
秋田といえば銘酒の宝庫——横手市ってどんなところ?
秋田県横手市は、人口約8万2千人(2024年現在)の農業と工業の街だ。冬の「横手かまくら」まつりが有名で、2月になると雪でつくった「かまくら」の中に座って甘酒をいただく風習があるんだよ。甘酒も酒造りの副産物——つまり横手は昔から酒と縁の深い土地なんだ。
秋田県全体で見ると、2023年度の国税庁データによれば、秋田県内の清酒製造業者数は約40社。「新政」「天の戸」「雪の茅舎」「刈穂」など全国区の銘柄が揃い、東北の日本酒文化を牽引してきた。秋田県の清酒出荷量は長年、全国上位5位以内を維持している実力県だ。
もろみタンクの中はどうなっているのか
さて、おじさんに言わせれば、今回の事故で「もろみ」という言葉を初めて聞いた人も多いんじゃないかな。
もろみ(諸味)とは、日本酒醸造における中間段階の発酵液のことだ。米・米麹・水・酵母を大きなタンクに仕込んで、約30日かけて発酵させたものがもろみで、これを搾ると清酒(お酒)になる。
もろみタンクの恐ろしさ——3つの危険
酒蔵のタンクは見た目以上に危険な場所だ。おじさんが調べたところによると、主に以下の3点がリスクとして挙げられる。
① 二酸化炭素(CO₂)の充満 発酵中のもろみは、酵母が糖をアルコールと二酸化炭素に分解する過程にある。タンク内部には高濃度のCO₂が発生しており、換気なしに頭をタンクに突っ込むだけでも気を失う危険がある。CO₂濃度が7〜8%を超えると意識を失い、10%以上では数分で死に至ることもある。
② 深さと液体の粘度 今回の事故でも、タンクの深さは「2メートル以上」と報じられている。もろみはドロドロとした粘度の高い液体で、一度落ちると自力で這い上がることがきわめて難しい。
③ 低温と体力消耗 酒造りの仕込みは主に冬場に行われ、タンク周辺の気温も低い。低温の液体に浸かると体温が急速に奪われ、体力を消耗するのが早い。
日本酒の歴史と秋田の誇り
日本酒の歴史は古く、弥生時代には米を口で噛んで発酵させた「口噛み酒」が存在していたとされている。現在のような麹を使った醸造技術が確立されたのは奈良時代(710〜794年)ごろとされ、宮廷や寺社で作られた記録が残っているんだ。
秋田県は「秋田杉」「秋田米」「秋田の水」という三拍子が揃った酒造りの聖地だ。秋田県産の酒造好適米「秋田酒こまち」は2003年に品種登録された比較的新しい米だが、吟醸香が出やすく、現在では秋田の多くの蔵元が使用している。また、「美山錦」「山田錦」も秋田の蔵元が積極的に使う品種だ。
横手市を含む県南エリアは、「雄物川」水系の清らかな伏流水が豊富で、昔から優れた酒が生まれてきた。この地域の酒造りは江戸時代にはすでに盛んで、藩の奨励産業として発展してきた歴史がある。
安全と伝統の両立——これからの酒蔵に求められるもの
今回の事故を受けて、酒造業界全体での安全対策の見直しが求められるだろう。
全国には2024年時点で約1,300社以上の清酒製造業者が存在する。その多くは従業員数十人以下の中小企業・家族経営だ。大手メーカーのような充実した安全設備を持つのが難しい蔵元も少なくない。
おじさんが言いたいのは、責めたいわけじゃないということだよ。ただ、何百年も続く日本の誇る伝統産業が、こういった事故で傷つくのは本当に悲しいことだ。働く人の命あってこそ、美味しいお酒が生まれるんだから。
厚生労働省は2019年に「酸素欠乏症等防止規則」を改正し、発酵タンク内作業を含む密閉空間での作業安全基準を強化した。しかし規則があっても、現場での実践が伴わなければ意味がない。業界全体での教育・啓発活動がより一層求められる局面だよ。
まとめ——お酒の向こうにある人の仕事
冷たいビールや熱燗の一杯を飲むとき、その一滴一滴に多くの人の手仕事が詰まっていることを、今回の事故は改めて教えてくれた。
亡くなった40代の男性が、どれほどお酒造りに情熱を傾けていたか——おじさんには知る術もないけれど、秋田の寒い蔵の中で真剣に仕事をしていた人だったはずだ。その死を無駄にしないためにも、酒造業界の安全対策が前進することを願っているよ。
君たちも、次に日本酒を飲む機会があったときは、その一杯に込められた職人の汗と情熱を、少しだけ思い出してみてくれよ。おじさんからのお願いだ。
それじゃあ、また次回。今日も読んでくれてありがとうよ。
おじさんのうんちくコーナー:酒造りと「窒息事故」の歴史
まあ、聞いてくれよ。実は酒蔵でのタンク内事故は日本の酒造業界では過去にも複数の記録がある。農林水産省や厚生労働省の労働災害統計では、食品製造業における「有害ガス等による窒息・中毒」の死傷事故は年間数十件規模で発生している。
日本醸造協会は「酒類製造における安全管理指針」を設けており、タンク内作業は必ず2人以上で行う「バディシステム」と、事前のCO₂濃度計測を義務付けるよう業界内で指導してきた。しかし、中小規模の酒蔵では設備投資が追いつかず、慣れによる油断が事故につながることがある。
ちなみに、日本酒の仕込みタンクは現代では主にステンレス製で、容量は1,000〜10,000リットル(1〜10キロリットル)クラスが主流だ。2メートル以上の深さがあるタンクも珍しくない。昔ながらの木桶(杉樽)を使っている蔵元もあるが、衛生管理の観点からステンレスへの切り替えが進んでいる。