やあやあ、今日は日本文学界でちょっとした騒動が起きたんで、おじさんが解説してあげようと思ってね。
2026年4月28日、帚木蓬生(ははきぎほうせい)さんの長編小説「少弐(しょうに) 民に捧げた三百六十年」を、講談社が回収すると発表したんだ。でもこの騒動を語るには、まず帚木蓬生という人物を知っておく必要があるよ。これがまた、おじさんが語らずにはいられないほど面白い人生なんだ。
東大→TBS→精神科医→作家という、まるで小説みたいな人生
帚木蓬生さんは1947年(昭和22年)、福岡県小郡市生まれ。東京大学文学部仏文科を卒業した後、TBS(東京放送)に就職したんだよ。そこから話が面白くなる。
TBSを退職した後、今度は九州大学医学部に学び直して精神科医になったというわけさ。「え、それだけで十分すごくない?」と思うだろう?ところがこの人は、精神科医として働きながら小説家としての活動も並行して続け、35年以上にわたってギャンブル依存症の治療にも取り組んできたんだよ。
読書管理サービス「ブクログ」によれば、これまでに全210作品以上を世に出している多作家だ。現在は福岡県中間市在住で、地元・九州への愛着を作品にも反映し続けている。
文学賞を総ナメにした壮観な受賞歴
おじさんに言わせれば、帚木さんの受賞歴は本当に壮観だよ。主要なものを並べてみようか。
- 1993年:『三たびの海峡』(新潮社)で第14回吉川英治文学新人賞を受賞
- 1995年:『閉鎖病棟』(新潮社)で第8回山本周五郎賞を受賞
- 1997年:『逃亡』(新潮社)で第10回柴田錬三郎賞を受賞
- 2010年:『水神』(新潮社)で第29回新田次郎文学賞を受賞
- 2011年:『ソルハ』(あかね書房)で第60回小学館児童出版文化賞を受賞
- 2012年:『蠅の帝国』『蛍の航跡』(ともに新潮社)で第1回日本医療小説大賞を受賞
- 2013年:『日御子』(講談社)で第2回歴史時代作家クラブ賞作品賞を受賞
- 2018年:『守教』(新潮社)で第52回吉川英治文学賞および第24回中山義秀文学賞を同時受賞
特に2018年の同時受賞は見事だよ。吉川英治文学賞は1993年の新人賞の「格上版」ともいえる賞で、優れたキャリアを積んだ作家に贈られる。新人賞から25年後に本賞を受賞するというのは、長い積み重ねを示しているよね。
今回の回収騒動、何が問題だったのか
さて、本題に戻ろうか。
「少弐 民に捧げた三百六十年」は2025年10月に講談社から出版された歴史小説だ。鎌倉時代から戦国時代にかけて北部九州で360年にわたって権勢を振るった少弐氏を描いた作品で、語り手が歴代当主の墓守をする人たちを訪ね歩く形式で物語が進む。帚木さん自身が「歴史に埋もれかかった存在を書き残したい」と語った意欲作だったんだよ。
問題になったのは、福岡県太宰府市で実際に活躍している歴史研究家と同姓同名の人物が、実名のまま小説に登場したことさ。しかもその人物が、新型コロナウイルス感染症で病死する設定になっていた。表紙にも目次にも「フィクション」の表記は一切なかった。
歴史研究家の家族によると、本人は知人から内容を知らされたという。帚木さんとは面識もなく、事前に連絡も一切なかった。「創作とはいえ、おかしい」と憤っているそうだよ。家族も「著者に問題があるのに加え、編集サイドのチェック機能も利いていなかったのではないか」と語っている。
本人と家族が講談社に抗議し、講談社幹部が2026年4月21日に謝罪と説明に訪問。4月27日から取次業者を通じて書店の在庫回収が始まった。
帚木さんは取材にこう語っている。「太宰府研究のレジェンドだから実名にした。リスペクトしかなかった。コロナの恐ろしさを強調したかった」——敬意があるからこそ実名を使ったのに、当人にとっては迷惑以外の何ものでもない結果になった。皮肉な話だよ。
講談社は現在、修正して新しい形で再出版する方向で著者と協議中とのことだよ。
まとめ——才能豊かな二刀流作家の今後に注目
帚木蓬生さんの人生は、東大卒業後にTBS勤務→九州大医学部再入学→精神科医として35年以上活動→210作品以上を発表した多作家、という、まるで小説の主人公みたいな経歴だよ。
今回の騒動はとても惜しいと感じる。いくら「リスペクト」していても、実在する人物を実名で登場させて「死亡」と書くなら、本人への事前連絡は不可欠だろう。著者側の思いと、当事者が受け取った衝撃とのギャップが大きすぎた。
修正版が出たら、ぜひ読んでほしいよ。北部九州で360年間も権勢を誇った少弐氏の歴史は、きっと読み応えのある内容のはず。まあ、精神科医・作家として第一線で活躍し続ける帚木さんの次の一冊を、おじさんも楽しみにしているよ。
うんちくおじさんの豆知識コーナー
「閉鎖病棟」と「ネガティブ・ケイパビリティ」——2つの顔
帚木さんの著作の中で特に人気なのが「閉鎖病棟」(新潮文庫、1997年4月刊)だ。読書管理サービス「ブクログ」では6406人が本棚登録しており、レビュー数は703件に上る。精神科病棟を舞台に患者たちの人間ドラマを描いたこの作品は、精神科医という著者の立場ならではのリアリティが光っているんだよ。
一方、2017年4月に出版された「ネガティブ・ケイパビリティ 答えの出ない事態に耐える力」(朝日選書)は3625人が登録する異色の人気作だ。「ネガティブ・ケイパビリティ」とはイギリスの詩人ジョン・キーツが1817年の手紙の中で言及した概念で、「どうにも答えの出ない事態に耐える能力」のこと。即断即決が求められる現代だからこそ響く一冊さ。医師・作家という二つの顔を持つ帚木さんが書くからこそ、この概念が深く刺さるんだよ。